Section : 皮膚病

皮膚に現れる癌の兆候 (日本語)

クリストフスー (Christophe HSU) – 皮膚科医. ジュネーブ、スイス

内 臓の疾患は、そのほとんどが皮膚に何らかの変化をもたらします。皮膚病変は、体内で起こっている目に見えない異常(癌など)を指標している場合がありま す。皮膚に現れる変化を見逃さずチェックすることで、癌の早期発見につながる可能性があります。皮膚に現れる癌のサイン(兆候)には、2種類が挙げられま す。

1. 体内で発生した癌が、皮膚病変として現れる。

2. 体内で発生した癌が、皮膚にまで転移している。

1. 体内で発生した癌が、皮膚病変として現れる。

  • この種類の皮膚病変は、体内で発生した癌が皮膚に変化を生じさせているものであり、皮膚癌とは異なります。
  • 体内の細胞が発癌すると同時に、皮膚に異常が現れる場合もあります。その場合、癌を摘出すると皮膚病変も治る傾向にあり、癌が再発すると再び皮膚に異変が生じることがあります。
  • 以下に挙げる皮膚疾患を発症した場合、まれに癌の兆候となっている場合があります。
  • 黒色表皮症
  1. 黒色表皮症を発症すると、脇・首・鼠径部(股間)の皮膚が褐色になり、ごわごわに分厚くなります。乳頭・へそ・膝・肘にも症状が現れる場合があります。
  2. 消化器官(胃腸)や尿路の癌を指標している可能性があります。
  3. 黒色表皮症は、癌を発症すると同時に現れる傾向があり、癌の進行と平行して症状にも変化が起きやすい疾患です。
  4. 黒色表皮症は、癌以外にも、糖尿病・甲状腺疾患・ホルモン療法・肥満と関連している場合があり、遺伝性疾患のときもあります。
               

Acanthosis Nigricans

黒色表皮症

  • 水疱性疾患
  1. 天疱瘡は、破れやすい水疱が形成されるのが特徴的です。胸腺腫瘍と関連している場合があり、胸腺腫を発症している患者の多くは、筋力が極端に衰える重症筋無力症を合併していることが少なくありません。
  2. 癌との関連性がないか的確な診断を行うために、必要に応じて、X線を用いる場合があります。
  1. 腫瘍随伴性天疱瘡は、口腔・性器に強い痛みを伴った水疱および潰瘍が形成されるのが特徴的です。
  2. 腫瘍随伴性天疱瘡は、リンパ腫と直接関係しています。
  1. 晩発性皮膚ポルフィリン症は、太陽光に敏感に反応する皮膚疾患で、発症すると、手・おでこ・顔などの太陽光に暴露される部分に水疱とかさぶたが出現します。患者によっては、顔の体毛が濃くなることもあり、肝臓がんを示唆している場合もあります。
  • 皮膚筋炎
  1. 皮膚筋炎を発症すると、太陽光に敏感になり、瞼・おでこ・前腕・手に赤紫がかった紅斑が現れます。
  2. 紅斑部分が腫れ上がるのも、この疾患の特徴です。
  3. 筋力の低下もしばしば見られます。
  4. 皮膚筋炎を発症する患者の中には、(体内に)癌を発病している場合もあります。
  • 砒素角化症
  1. 砒素角化症は、長期に渡って砒素を摂取したことによって引き起こされる疾患で、肌にとうもろこしの表面の様な角化性丘疹が出現します。(砒素は、漢方薬にも含まれることがあります)
  2. 喘息の治療として、薬草(ハーブ)を使用したお薬の中に、砒素が含まれている場合もあります。
  3. 症状は、手のひらと足の裏から始まり、体幹、体肢へと広がっていきます。時間の経過と共に、症状が現れている部分の細胞が癌性に変化することがあります。
  4. 砒素角化症は、肺がん・咽頭がん・陰部や尿路部分の癌に関連している場合もあります。
  • 乳房パジェット病
  1. 乳房パジェット病を発症すると、乳頭の周りに赤い斑点が出現します。
  2. 湿疹と間違われるこの疾患は、乳がんが関係している場合が多くあります。パジェット細胞は、表皮の中だけに留まっています。

乳房パジェット病 (Paget’s Disease)

  • 紅皮症(剥奪性皮膚炎)
  1. 紅皮症は、全身の皮膚が赤くなり鱗屑(表皮が剥離したもの)で覆われる疾患です。皮膚が腫れたり、発熱や衰弱といった症状が起こる場合もあります。
  2. 紅皮症を発症する患者のうち10~15%が、体内に癌を発症しています。最も多い癌の種類は、リンパ腫(リンパ腺の細胞が癌化して起こる)です。
  • ポイツ・イェガース症候群
  1. ポイツ・イェガース症候群は、黒または茶色の斑点が唇や口腔内に出現するのが特徴です。
  2. 常染色体(性染色体以外の染色体)の優性遺伝子によって形質が発現する常染色体優性疾患ではありますが、患者の50%は、家族に遺伝的要因が見られません。
  3. 患者の数%は、胃腸がん・乳がん・子宮がんを発症していることがあります。
       

Syndrome de Peutz Jeghers

ポイツ・イェガース症候群(Peutz-Jeghers Syndrome)

  • 神経線維腫症
  1. 神経線維腫症は、遺伝性疾患です。
  2. 皮膚に複数の良性腫瘍(神経繊維腫)が出現するのが特徴です。
  3. 患 者の2~5%は、体内に癌を発症します。脳(星状細胞腫、膠芽腫)や副腎(褐色細胞腫)に腫瘍ができることがあります。神経線維腫症を発症している患者 で、頭痛・背痛・腰痛・高血圧の症状が出ている場合は、癌を発病していないか検査する必要があります。

Neurofibromatose (Maladie de Recklinghausen)

神経線維腫症

2. 体内で発生した癌が、皮膚にまで転移している。

  • どの種類の癌も、皮膚に転移する可能性を持っています。体内で発生した腫瘍細胞が皮膚にまで到達しそこで二次的に腫瘍を生じることを「転移」といいます。
  • 最も多く皮膚に転移する傾向のある癌は、肺がん・結腸直腸がん・乳がんです。皮膚にまで転移している場合は、他の臓器にも転移しているケースがほとんどです。
  • 部位
  1. 癌の種類によって、腫瘍が発生しやすい部位はありますが、それらを万人に当てはまるように総括するのは困難です。
  2. 例を挙げると、乳がん・肺がん・口腔がんは、頭皮・顔面・首に転移するケースがしばしば見られます。
  3. 胸部への転移は、乳がん・肺がんが元(原発病変)となっている場合がほとんどです。
  4. 腹腔内がん・骨盤内がん・乳がんが臍(へそ)に転移したものは、転移性臍腫瘍(Sister Mary Joseph’s nodule)と呼ばれています。
  • 臨床的特長
  1. 皮膚に転移した癌腫瘍は、ひとつないし複数の小結節(しこり)を形成します。
  2. 小結節は触ると固く、動かせたり動かせなかったりします。
  3. 小結節の成長は早く、直径1~3cmほどの大きさになります。
  4. 色は様々で、赤・茶・青・黒・または肌色の場合があります。
  • 対処方法
  1. 皮膚転移の疑いがある場合は、病変の一部を採取(皮膚生検)し、検査する必要があります。
  2. 皮膚転移との診断が出た場合は、体内のどこが癌の発生元(原発病変)となっているのか詳しく調べなければなりません。
  3. 治療方法は、原発腫瘍の種類・転移の範囲・患者の容態などによって異なります。照射線治療や化学療法などが用いられます。

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クリストフスー (Christophe HSU) – 皮膚科医. ジュネーブ、スイス

全国皮膚センター (National Skin Centre). シンガポール

日本語訳:白 富美

はじめに

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Category : 皮膚に現れる癌の兆候 - Modifie le 01.8.2013